第12回 深放電によるトラブルから製品を守る救世主、電池保護IC「S-82B1Bシリーズ」

TechanaLye2019-9-30
株式会社テカナリエ

今回は、パワーセービング機能付リチウムイオン電池保護IC、S-82B1Bシリーズを取り上げる。S-82B1Bシリーズは、エイブリックが提供する数々の電池保護ICの中でも、小型電池搭載製品を対象に、従来製品からパワーセービング機能を付加したものである。

電池保護ICは、電池の状態を監視して過充電、過放電、過電流などの異常状態を検出し、保護制御を行うものであるが、S-82B1Bシリーズでは従来製品に加え、図1に黄色で示すPS端子(パワーセービング信号入力端子)を追加。ここに信号入力することで、パワーセービング機能が動作する。パワーセービング機能動作時は、電池パックの放電を禁止すると同時に、 S-82B1Bシリーズ自身の消費電流を最大50nAに低減し、電池の消費する電流を限りなく0に抑える。

図1 S-82B1Bシリーズの接続例
図1 S-82B1Bシリーズの接続例

では、なぜ、このパワーセービング機能が必要なのだろうか。

最も重要な役割としては、製品未使用時の電池の消費する電流を限りなく0に抑え、電池が深放電に至るのを防ぐことが挙げられる。

  • 保護回路、製品の消費電流をほぼゼロに

  • 在庫期間の製品未使用時に電池を消費しない。

    保護回路、製品の消費電流をほぼゼロに  在庫期間の製品未使用時に電池を消費しない。

  • 電池の深放電を防ぐ(電池残量0になるまでの時間を可能な限り延長する)

    電池の深放電を防ぐ

図2 パワーセービング機能の役割

深放電とは、放電終止電圧(安全に放電を行える放電電圧の最低値)を下回った後さらに放電が続き、電池電圧が1Vを下回る非常に低い電圧になってしまった状態を指す。電池保護ICは、過放電を検出すると電池から製品への放電を停止。電池からこれ以上放電が進まないようにするが、それでも保護回路のリーク電流や電池の自己放電により、電池の放電は徐々に進行する。こうして、さらに放電が進行し深放電に至ると、電池の劣化や充電した際に発熱や発火してしまう事故につながる恐れが出てくる。そこで、リチウムイオン電池を搭載する製品では、深放電に至るとその後は充電できないようにする安全設計を施している製品が多い。しかし、この安全設計ゆえに、出荷後お客様の手元に届くまでに電池が深放電に至り、購入した製品が電池残量0で充電も出来ず、全く起動しないといった問題も発生するのだ。

電池容量が放電終止電圧(ほとんどの製品では、この状態になる前に電池残量0と表示されるようになっている)以下にならないよう、フル充電して出荷すればよいと思われるかもしれない。しかし、2016年からリチウムイオン電池の航空輸送に関する規則書が改訂され、航空貨物として輸送する際には充電率を定格容量の30%以下にするよう求められるようになった。特に容量の少ない小型電池を搭載する製品においては、工場からの出荷後、空輸を経て倉庫や店頭で保管している間に深放電に至り、二度と動作しなくなってしまう状況も十分に発生し得る(図3)。

図3 「電池が深放電に至った後は充電不可」とする製品で起こり得るトラブル
図3 「電池が深放電に至った後は充電不可」とする製品で起こり得るトラブル

この問題を回避するには、深放電になる前、電池残量0になるまでの時間を可能な限り延長することが有効となる。

図4は、ワイヤレスヘッドフォンなどに使われる容量25mAhの小型電池について、30%充電した状態(7.5mAh)から電池残量0になるまでの時間を調べたものである。他社製品が2,500時間(約3ヵ月半)、パワーセービング機能を搭載しないエイブリックのS-8240Aシリーズでも5,000時間(約7カ月)と1年を待たずに電池残量0になる一方で、S-82B1Bシリーズでは150,000時間(17年間超)と、圧倒的な長期化を実現していることが見て取れる。

図4 低容量の小型電池も電池残量0にしないS-82B1Bシリーズのパワーセービング機能
図4 低容量の小型電池も電池残量0にしないS-82B1Bシリーズのパワーセービング機能

S-82B1Bシリーズのパワーセービング機能を使えば、小型電池の電池残量0になるまでの時間を十数年のレベルで延長することができる。 S-82B1Bシリーズは小型電池搭載製品の抱える課題を鮮やかに解決する救世主のような電池保護ICなのだ。

次回は、深放電が引き起こす問題について、もう少し掘り下げて見ていくことにしたい。

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執筆:株式会社テカナリエ
“Technology” “analyze” “everything“を組み合わせた造語が会社名。年間300のエレクトロニクス製品分解、解析結果を基に、システム構造やトレンド解説、市場理解の推進を行っている。

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