リチウムイオン電池保護IC

中国のモバイルバッテリー新安全基準「GB 47372-2026」とは?

1. 中国のモバイルバッテリー新安全基準「GB 47372-2026」とは?

2026年春、中国で発表されたGB 47372-2026は、モバイルバッテリーやポータブル電源の安全性を定める新たな国家基準です。近年多発するバッテリーの発火事故防止と粗悪品の淘汰を目的に策定され、2027年4月に完全に施行されます。
史上最も厳しいと評される本基準の最大の特徴は、過充電や耐熱等大幅なテスト強化に加え、セルに鋼針を突き刺しても発火・爆発しないことを求める「釘刺し試験」が義務化されます。さらに、二重保護回路や、個体識別コードによるトレーサビリティも導入されます。
GB 47372-2026の施行によって日本のPSE認証(電気用品安全法)の基準が直ちに変わるわけではありません *1が、現在日本国内に流通しているモバイルバッテリーやポータブル電源の多くは中国製です。そのため、この規制は日本市場にも波及し、製品全体の安全性底上げや、危険な格安品の淘汰、価格の適正化といった大きな変化をもたらすと見られています。

 

2. 「GB 47372-2026」策定の背景と概要

2-1. 「GB 47372-2026」策定の背景

中国はモバイルバッテリー(Power Bank / 充電宝)や、ポータブル電源(アウトドア電源)の世界最大の生産国であり、消費国でもあります。それでは、なぜ史上最も厳しいといわれる基準が必要になったのかというと、近年以下のような問題が深刻化していたからです。

「発火事故の多発とリコール」
モバイルバッテリー市場の急拡大に伴い、品質のバラつきや安価な粗悪品による発火・爆発事故が相次いでいます。大手ブランドを含め大規模な製品リコールが頻発し、航空機への持ち込み制限が厳格化されるなど、社会的な問題となっていました。

これまでの汎用的な安全基準や「3C認証」だけでは、高温環境下での放置、過充電、落下や圧迫といった過酷な使用環境、濫用シナリオにおいて、既存の基準を超えるリスクを排除しきれていませんでした。

このような状況を受け、中国工業情報化部(MIIT)などの政府機関が主導し、モバイルバッテリーの「本質的な安全性の向上」と市場の健全化(粗悪品の淘汰)を目指して、極めて厳格な新基準「GB 47372-2026」が策定されました。

 

2-2. 「GB 47372-2026」施行の概要

  • 適用範囲:
    • Power Bank(モバイルバッテリー)等、他のデバイスに給電できる携行可能なバッテリー搭載機器
      なお、TWSイヤホン(ワイヤレスイヤホン)用など小型の充電ケース等については、内蔵電池の総定格容量が600mAhを超えるものがモバイル電源機能を備える機器として対象に含まれます。
  • 基本仕様条件:
    • 定格入力電圧:交流 220V(*対応範囲に220Vを含むもの)および/または直流 250V 以下
    • 出力電圧:直流および/または交流
    • 重量:18kg 以下
  • 製品区分:

    内蔵電池の総定格エネルギーによって製品区分が定義されています。

    • ポータブルモバイル電源(モバイルバッテリー等):160Wh 以下
    • ポータブル蓄電電源(アウトドア電源等):160Wh 超
  • 公布日:2026年3月31日(公式発表は4月3日)
  • 完全施行日: 2027年4月1日(以降非対応製品は販売禁止)
  • 移行期間:12ヶ月

注意点: 2027年4月1日以降は、この新基準に適合していない製品は中国国内での製造、販売、および輸入が一切禁止されます。2026年現在、メーカー各社は1年間の移行期間を利用して対応を急いでいます。

 

3. 「GB 47372-2026」対応:モバイルバッテリー回路設計者が把握すべきポイント

この基準が「史上最も厳しいモバイルバッテリー規制」と呼ばれる理由は、テスト強度の引き上げと、新たな安全要件の追加にあります。モバイルバッテリー回路設計者は、次のような規制強化ポイントをおさえる必要があります。

 

「GB 47372-2026」規制の主な強化ポイント

① テスト基準の大幅な強化

バッテリーのコア部品であるセルに対し、以下を代表とする従来よりも厳しい試験を課しています。

  • 過充電試験:充電電圧の負荷をこれまでの基準から1.3倍に引き上げ。
  • 圧壊(スクイーズ)試験:物理的な圧迫耐性を従来の13.0kN (±0.78kN) から20kN (±1.2kN) へ引き上げ *2
  • 熱濫用(高温)試験:耐熱試験の温度を130°Cから135°Cへ引き上げ。

② 「釘刺し試験」の導入

フル充電した電池セル(単体)に直径4mmの耐高温鋼針(タングステン鋼など、針先の円錐角は14°)を(20 ± 1) mm/s の速度で垂直に突き刺す試験です。これはパックやモジュール構造による保護ではなく、電池セルそのものの単体評価として義務付けられています。針を突き刺して完全に貫通させ、そのままの状態で5分間、発火も爆発もしないことが合格の条件です。内部ショートという最も過酷な異常状態に対し、セルレベルでの本質的な安全設計が施されたバッテリーしかクリアできない、極めて厳格な要件となります。

③ 長期使用(経年劣化)への対策

バッテリー老化後のリチウム析出検出
一定条件下で充放電サイクルを繰り返し、300サイクル時点で総放電容量が 225C(定格容量Cの225倍)未満であれば225C到達まで充放電サイクルを継続。内部ショートの原因となる金属リチウムの析出リスクが低いかをチェックします。

④ 回路設計・保護機能の厳格化(二重保護、無効化、温度制御)

電圧や温度のモニタリングおよび制御において、従来の保護回路では許されない厳格な設計が義務付けられます。

  • 二重保護回路の採用(1Fail対応)
    既存の保護回路とは別に「二重保護回路」の搭載を義務化。UL規格やIEC 62368-1等*3と同様に、1つの部品が故障(1 Fail)しても確実に保護動作ができる冗長性が求められます。
  • 異常時の無効化機能の搭載
    異常高電圧、異常低電圧が発生した場合には、単に動作を止めるだけでなく、製品を安全に無効化(充放電禁止)するフェイルセーフ機能の搭載が必要です。
  • 充放電可能な温度範囲の設定
    電池セルメーカーが指定する温度範囲外では、充電・放電を物理的に行えないようにする厳密な温度制御(BMS)が必要です。

⑤ インテリジェント管理機能とトレーサビリティ(個別識別コード)の義務化

異常が発生した際の情報を本体側で記録・読み取りできる機能も求められます。また、モバイルバッテリー1つひとつに、いわば「身分証明書」となる独自の識別コード(一意のコード)をレーザー刻印などで明記させます。消費者はこのコードから、中の電池セルがどこのブランドのものかといった確実な情報を追跡できるようになります。

この他にも、経時劣化や充放電サイクルの増加に伴う充電電圧低下制御や、入出力ポート短絡保護、入力出力ポート誤接続に対する保護要件も強化されています。

以上、代表的な試験内容の変更を一部のみピックアップしご紹介しましたが、規格全体の要求はこれに限りません。総合的に従来よりも厳しい試験が課されることにより、モバイルバッテリー安全性向上が図られていること分かります。

 

4. エイブリックが提供するリチウムイオン電池保護回路ソリューション

エイブリックは、スマートフォンや電動工具等をはじめとしたバッテリー搭載機器向けにリチウムイオン電池保護ICを提供しており、30年以上の採用実績があります。スマートフォン向けリチウム電池保護IC開発で培った二重保護や急速充電対応などハードウェアによる堅牢な電池保護回路技術によって、「GB 47372-2026」に適合するためのスマートな電池保護回路をご提案いたします。

①二重保護回路の採用(NchTr ローサイド保護)

二重保護回路の採用(NchTr ローサイド保護)S-82K1Bシリーズ VDD S-82K1B Series VSS VINI DO CO VM VDD S-82K1B Series P+ P- VSS VINI DO CO VM Battery
こちらは、非常に一般的な1セルリチウムイオン電池の二重保護回路構成例です。センス抵抗を1st、2nd保護で共用される場合も多く、1st保護、2nd保護の過電流検出電流は同じ設定が可能です。

推奨製品:1セル用バッテリー保護IC S-82K1Bシリーズ

 

②二重保護回路の採用(NchTr ハイサイド保護)

二重保護回路の採用(NchTr ハイサイド保護)S-821Aシリーズ S-821A Series VSS VDD VDD TH TH S-821A Series P+ P- VSS VIN DO CO VIN DO CO VM PS VM PS Battery
こちらは、ハイサイド保護での二重保護回路例です。一般的な二重保護回路と同様に1st保護、2nd保護の過電流検出電流は同じ設定が可能です。S-821Aシリーズは高温検出し、充放電禁止にすることができます。

推奨製品:1セル用バッテリー保護IC S-821Aシリーズ

 

③異常時の無効化機能の搭載(0V充電禁止による低電圧ロックアウト)

過放電状態に陥った電池への充電による発火リスクを防ぐため、異常低電圧時には充放電を不可逆的に禁止(無効化)するフェイルセーフ機能の搭載が義務付けられます。
規格における試験条件:試験の判定時は「電池放電終止電圧 × 0.4」という過放電状態が印加され、その電圧下で製品が確実に充放電禁止(ロックアウト)状態を保持できるかを検証しています*4
実際の製品設計にあたっては、以下の項目を各メーカーの設計思想に基づき決定・検討する必要があります。

  • 基準電圧の定義(システムBMS側の設定値とするか、電池保護ICの過放電検出電圧とするか)
  • 無効化を動作させる倍率およびしきい値(0V充電禁止電圧)の設定

なお、0V充電禁止電圧の高電圧化や高精度化に関する具体的な要件につきましては、採用されるIC製品シリーズによって対応仕様が異なります。最適な保護ICの選定や回路設計につきましては、当社販売窓口までお問い合わせください。

 

④異常時の無効化機能の搭載(異常高電圧後の充放電禁止)

規格における試験条件:電池充電上限電圧+0.3V以上になった場合は、充放電を禁止する必要があります*4。電池セルの電圧が低下したとしても、この充放電禁止は維持しなければなりません。

異常時の無効化機能の搭載(0V充電禁止による低電圧ロックアウト)S-8206シリーズ Battery VDD S-82K1B Series S-8206Series VSS VINI DO CO VM VDD VSS CO VM VDD S-82K1B Series VSS VINI DO CO VM P+ P-
上図はこれを実現するための回路構成となります。Fuseを充放電経路に設置します。S-8206Aの過充電検出電圧を上回るとFuseを切断することで異常高電圧後、充放電禁止にします。

推奨製品

 

⑤充放電可能な温度範囲の設定

電池セルメーカーの指定する上限充電温度(Tcm)、下限充電温度(Tcl)の範囲外での充電と上限放電温度(Tdm)以上での放電を禁止する必要があります。確認試験は+4°C、-4°Cで実施されます。

異常時の無効化機能の搭載(異常高電圧後の充放電禁止)S-82D1Aシリーズ VDD S-82K1B Series VSS VINI DO CO VM VDD S-82D1A Series VSS TH VINI DO CO VM CTL P+ P- Battery
1st保護にS-82D1Aを採用することでNTCサーミスタによる温度保護(±3℃保証)を追加できます。MCUの温度監視と合わせて温度に関しても二重保護を実現できます。また、S-82D1Aシリーズは低温検出も可能です。

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お問い合わせ

その他、お客様のご要望に合わせて弊社ラインナップの中から最適な保護回路構成をご提案いたします。当社販売窓口までお問い合わせください。

 


*1. 日本国内で販売する製品は、GB規格適合とは別にPSE技術基準への適合が必須となります。
*2. 円筒形、角形セルの場合:円筒形セルは、縦軸に対して垂直方向(側面)から圧壊。角形セルは、最も面積が大きい面に対して垂直に圧壊。それ以外の形状や試験の詳細については、規格原文をご参照ください。
*3. 二重保護(1Fail対応)に関連する主な安全規格:ポータブル機器向けリチウム電池の安全規格(IEC 62133-2)や、機器用・移動用バッテリーに関するUL規格(UL 2054)など、リチウムイオン電池固有の安全規格においても同様の冗長設計が要求されています。
*4. メーカー設定条件:製品設計において無効化を動作させる電圧条件は、各メーカーが自社製品の設計思想に応じて決定します。

【免責事項】
本コンテンツは、作成日時点における中国国家規格「GB 47372-2026」に基づき、一般的な参考情報として提供するものです。内容の正確性には努めておりますが、その完全性や最新性を保証するものではありません。また、予告なく本コンテンツの内容を更新することがあります。実際のお客様の製品・サービスの規格適合性や法的判断については、必ず最新の規格原文をご確認の上、お客様ご自身の責任において検証・ご判断くださいますようお願いいたします。本資料の利用により生じた損害について、当社は一切の責任を負いかねます。

参考規格:GB 47372-2026、GB 31241-2022
作成日:2026年8月1日