車載用IC

ボルテージトラッカとは?

 

1. ボルテージトラッカとは

ボルテージトラッカは、ADJ端子に入力される電圧(VADJ)と等しい電圧をVOUT端子に出力するICです。
ADJ端子入力電圧に追従(Track)するため、ボルテージトラッカと呼ばれます。主に車載Off board ratiometric* sensorの電源として使用されます。 *電源電圧に比例した

図1 ボルテージトラッカの接続例
図1 ボルテージトラッカの接続例

 

2. ボルテージトラッカを使うべきケース

・高精度なセンシングが必要な場合

近年、新たに開発されている自動車には様々なセンサ類が搭載されており、高度な車載制御システムの実現のために高精度なセンシングは欠かせないものとなっています。
ボルテージトラッカは、ECU(Electronic Control Unit)から離れた箇所に設置されているオフボードセンサに安全に電力を供給し、正確に信号を読み取りたい場合に最適なICです。その理由は次のボルテージトラッカの特長に示す、優れたトラッキング電圧精度にあります。

・天絡や地絡からMCUを保護したい場合

図2 オフボードセンサとMCUの電源(LDO)を共通とした場合
図2 オフボードセンサとMCUの電源(LDO)を共通とした場合

MCU(Microcontroller Unit)とセンサがECUの同一基板上にある場合は、それらの電源電圧を一つの電源として供給しても問題はありません。
しかし、車載センサの多くは実装基板をMCUと別にするオフボードセンサであるため、そのままオフボードセンサとMCUの電源を共通とした場合、基板間を接続するワイヤーハーネスで発生する意図しない天絡や地絡によってMCUを故障させてしまう可能性があります(図2参照)。

 

図3 オフボードセンサの電源をボルテージトラッカにした場合
図3 オフボードセンサの電源をボルテージトラッカにした場合

ボルテージトラッカは、オフボードセンサとMCUの電源を分離するとともに、各種保護機能によって意図しない天絡や地絡からMCUを保護することができます(図3参照)。

 

図3 オフボードセンサの電源をボルテージトラッカにした場合
図4 LDOの熱分散にも効果あり

 

 

更にはボルテージトラッカを使用することでLDOの熱分散にも効果があります(図4参照)。

 

 

3. ボルテージトラッカの特長

① 優れたトラッキング電圧精度

ボルテージトラッカは、出力電圧がADJ端子入力電圧に追従するため、ADJ端子入力電圧と出力電圧の差(オフセット電圧)を非常に小さくできるという特長があります。
例として、オフボードセンサ(Ratiometric Linear Hall IC)の電源にLDO(Low Drop Out)レギュレータを使用した場合と、ボルテージトラッカを使用した場合の、オフボードセンサの読み取り精度への影響について説明します。

表1 ブロック図にある素子と端子の説明
素子/端子 説明
ECU Electronic Control Unitの略語で、エンジンやエアコン、トランスミッション等、様々なシステムをコントロールする装置です。
自動車には平均して数十個ものECUが搭載されています。
MCU Microcontroller Unitの略語で、電子デバイスの様々な機能や特性をコントロールする半導体チップです。
ADC Analog-to-Digital Converterの略語で、アナログ信号をデジタル信号に変換する電子回路です。
Vref ADCのフルスケール基準電圧を示しています。
LDO
≫LDOとは?
Low Drop Outの略語で、入出力電圧差が小さくても動作できるリニアレギュレータを指します。
Ratiometric sensor 電圧の変化によって信号を出力するセンサです。
センサの感度は電源電圧に比例するため、電源電圧が変動すると出力電圧も変動します。
例として、Ratiometric Linear Hall ICは自動車の様々な箇所で電流センサとして使われています。
オフボードセンサの電源にLDOを使用した場合

図5はオフボードセンサの電源にLDOを使用した場合です。LDO1とLDO2の出力電圧は同じ設定電圧の同一品番を選んだとしても、それぞれが持つ製造ばらつきや、それぞれが受ける温度変化又は電流の変化によって、異なった値となります。
ここで、オフボードセンサの電源電圧(LDO2の出力電圧)だけが温度変化によって5.0Vから4.9Vに下がった場合を考えてみます。 電源電圧が5.0Vのとき、0mTで2.50Vであるオフボードセンサの出力信号は、電源電圧の低下に比例して下がり2.45Vに変化します。 その結果、LDO1から変わらず5.0Vの基準電圧を受けているADCではオフボードセンサ信号の読み取り誤差が発生してしまいます。LDO1の出力電圧のみが変動した場合も同様です。

図5 LDOを使用した場合
図5 LDOを使用した場合
オフボードセンサの電源にボルテージトラッカを使用した場合

しかし、図6のようにオフボードセンサの電源にボルテージトラッカを使用した場合は、この問題を解決することができます。
LDOの出力電圧が温度変化によって5.0Vから4.9Vに下がっても、ボルテージトラッカの出力電圧はADJ端子入力電圧(VADJ)に追従するため、オフボードセンサの読み取り精度は低下しません。

図6 ボルテージトラッカを使用した場合
図6 ボルテージトラッカを使用した場合

 

② 各種の保護機能を内蔵

図7 天絡時の逆流電流防止機能
図7 天絡時の逆流電流防止機能

ボルテージトラッカには、各種の保護機能が内蔵されています。
通常、車載のオフボードセンサはワイヤーハーネスを通じてECUと信号のやり取りをしています。 意図しない故障によってワイヤーハーネスが電源ラインとショート(=天絡)、又はグランド(GND)とショート(=地絡)した場合、接続先にあるECUの動作に異常を発生させてしまう可能性があります。
ボルテージトラッカに内蔵された逆流電流防止機能は、天絡時にボルテージトラッカの出力端子からECU内部へ電流が流れ込むのを防止する機能です(図7参照)。

図8 地絡時の過電流保護回路・サーマルシャットダウン回路
図8 地絡時の過電流保護回路・サーマルシャットダウン回路

また、ボルテージトラッカに内蔵された過電流保護回路およびサーマルシャットダウン回路は、ボルテージトラッカの出力端子の地絡時に発生する過大な電流や自己発熱から、ボルテージトラッカを保護するための機能です(図8参照)。
ボルテージトラッカは、これらの各種保護機能によってワイヤーハーネスの天絡や地絡からECUおよびMCUを保護することができます。

 

 

エイブリックの「S-19720シリーズ」も、天絡や地絡からデバイスの破壊を防ぐ過電流保護回路サーマルシャットダウン回路逆流電流防止機能を内蔵しています。 さらに、ボルテージトラッカの入力電圧と出力電圧の差(オフセット電圧)が±5mVで業界最小のオフセット電圧を実現しています。これによりオフボードセンサの読み取り精度を向上させて自動車の安全性確保をサポートします。


エイブリックのボルテージトラッカ

S-19720 オフセット電圧 : ±5mV
出力電流 : 50mA

データシート

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S-19721 オフセット電圧 : ±4.5mV
出力電流 : 250mA

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