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[産学農共同プロジェクト] ガーナ等の貧困農業国における持続可能な農業を支援

樹液発電を用いたワイヤレス植物モニタリングセンサシステム 沖縄県宮古島で実証実験を開始

  
 

立命館大学
Degas株式会社
エイブリック株式会社
株式会社浅井農園

  立命館大学は、Degas株式会社(東京都渋谷区)、エイブリック株式会社(東京都港区)、株式会社浅井農園(三重県津市)と協力し、無電源農地での植物モニタリングを検証する実証実験を、10月14日(木)より沖縄県宮古島市で開始いたします。

実証実験地のパニパニファームキャステム     カカオの木とモニタリングセンサ

■社会的な背景
  世界の貧困層(1日1.9ドル以下で生活)の人口は、1990年以降の過去約30年間で、20億人から8億人へ減少したとされています。しかしサブサハラアフリカ(サハラ砂漠以南地域)では、逆に貧困層の人口が増加中であり、2030年には、サブサハラアフリカに暮らす人々が世界の貧困層の約9割を占めると予測されています。
                              *The Wolrd Bank HPの情報を元に作成

■実証実験の目的と概要
  本実証実験では、立命館大学理工学部教授の道関隆国(たかくに)が2012年に考案した「樹液発電を用いたワイヤレス植物モニタリングシステム」(※)を、無電源農地が多いガーナの南国果樹に適用させることを目的としています。ガーナの気候に近い沖縄県宮古島市をフィールドに、カカオやバニラ等を用いて、無電源農地でも植物の状態をモニタリングできるワイヤレス植物モニタリングセンサシステムを構築し、その有用性を検証します。検証を受け、電気や通信インフラが脆弱な地域にシステムを導入し、同地域の農場経営が持続可能な形へ進むことを期待しています。

■実証実験の特長
1.無電源農地でも植物の状態を安定的にモニタリングすることが可能 電池不要の植物モニタリングシステムを適用することで、無電源農地が多い地域における果樹の品質と生産性の向上に取り組みます。

2.産学農が一体となり、共同でプロジェクトを推進 今回の実験において、立命館大学はプロジェクト管理やセンサの試作、センシングデータ解析、Degas株式会社は、システムの製品化に向けた動きや収集したデータの蓄積・評価、エイブリック株式会社は、センサ用モジュールの提供やセンサ用受信システムの技術共有、株式会社浅井農園は、実証実験用の農場提供、果樹の生育・観察を行います。

3.SDGsが掲げる持続可能な社会にも貢献 本システムをガーナ等の貧困農業国に展開していくことで、SDGsの4つの目標 (①貧困をなくそう②飢餓をゼロに⑦エネルギーをみんなに そしてクリーンに⑩人や国の不平等をなくそう) の達成を目指します。

実証実験プロジェクト体制

■実証実験の概要
 契約期間:2021年7月~2024年6月(3年間)
 場  所:パニパニファームキャステム(沖縄県宮古島市)
 検証内容:ガーナの気候に近い沖縄県宮古島市でセンサシステムの実用化に向けた開発を進める。

(※)「樹液発電を用いたワイヤレス植物モニタリングシステム」について
このシステムは、植物の導管を通る水分(木部樹液)と導管に刺した針電極の亜鉛が反応して発生する微小な電気を蓄電し、一定の電力が貯まった時点で、植物発電センサ内の送信機から受信機へワイヤレス送信する技術です。水分量が少ない土壌や、植物自体が弱り木部樹液を吸い上げられない場合には、導管を通る木部樹液量が低下し、発電量も低下します。そのため、送信機から受信機への送信の信号間隔が長くなります。受信間隔をモニタリングすることで、植物の健康状態を継続的に観察することが可能となります。

      樹液発電を利用した植物モニタリングセンサ    電源地区での樹液発電を利用した植物モニタリングセンサシステム

 

【取材・内容についてのお問い合わせ先】
立命館大学広報課 名和TEL.075-813-8300 E-mail: r-koho@st.ritsumei.ac.jp

 

[ 参考資料 ]
立命館大学理工学部 道関・田中研究室について
     環境発電を用いたバッテリレス無線センサ構成として、道関・田中研究室では、環境発電素子により発生する微小な発電量を、一旦、コンデンサに蓄電し、コンデンサに一定の電力量が溜ったら、その電力で無線機を駆動する間欠型の電源変換回路を提案してきました。本電源回路は、環境発電により発生する発電量に応じて充電時間が変化するため、無線機の無線間隔で環境発電素子の発電量をセンシングできることになります。センシング機能付き間欠型電源変換回路は、共同研究先のエイブリック株式会社よりCLEAN-Boost®技術1)として実用化され、国際会議2)でもBest Paper Awardを受賞しています。バッテリレス無線センサとしては、漏水発電を利用したワイヤレス漏水センサ3)は、既にエイブリック株式会社から商品化され、尿発電を利用したワイヤレス尿漏れセンサシステム4)や、樹液発電を利用した植物モニタリングセンサシステム5)が、実証実験の段階を迎えています。

Degas株式会社について
Degas株式会社は西アフリカ・ガーナを拠点に、農業資材融資・営農指導・デジタル化による事業創出を通じた小規模農家の所得向上事業を行っています。サブサハラアフリカ全体には6億人もの小規模農家がおり、彼らの所得向上は世界の貧困解決において大きな意味を持つと我々は考えています。現場の課題として、人力で行っている農作物のモニタリング・管理コストが高い上に不正確です。無電化無電源地域において、本研究で開発するシステムによって農作物をモニタリングできれば、管理コストの削減と植物の生育の形式化/形式知に繋げることができると考えています。また、そうした地域において商品価値の高い園芸作物の栽培に繋げることによって新たな収入ポテンシャルをもたらすことができると考えています。中長期では本センサシステムがもたらすデータから農家個人の信用情報に繋げることで、適正な金利設定やマイクロファイナンスへと展開していくことも目標に、本研究を推進していきたいと思っています。

エイブリック株式会社について
エイブリック株式会社は50年以上の実績を持つアナログ半導体専業メーカーで、2016年1月にセイコーインスツル株式会社から独立し、2018年1月に現在の社名のもと新たなスタートを切りました。「『Small Smart Simple』なアナログ半導体ソリューションでお客様に感動を提供」というビジョンのもと、民生機器や携帯機器、車載や医療機器向けに、小型、低消費電力、高精度のアナログ半導体製品を提供し、2020年4月からはミネベアミツミグループの一員として、引き続き世界中の人々の豊かな暮らしに貢献できるよう取り組んでいます。今回提供するCLEAN-Boost®とは、これまで電力として活用できなかった微小な環境エネルギーを蓄電・昇圧し、無線発信などを可能にするエナジーハーベストに最適な当社独自の技術で、インフラ、農業、ヘルスケアなど様々な分野におけるIoT開発で無限の可能性を秘めています。本プロジェクトではセンサ用モジュールの提供及び受信システムの技術供与を行っています。

株式会社浅井農園について 
株式会社浅井農園は「常に現場を科学する」研究開発型の農業カンパニーとして、独自の研究成果や大学・企業との共同研究成果を農業現場へ還元することに励んでいます。本共同研究では栽培設備の提供・植物管理技術の提供・得られたデータの分析について協力し本システムの農業現場での実用化を目指します。

 

[参考文献]

1) https://www.ablic.com/jp/semicon/clean-boost-technology/
2) M. Sudo, et.al., “150-nA FD-SOI Intermittent Startup Circuit for Micropower Energy Harvesting Sensor” IEEE SOI-3D-SUBTHRESHOLD MICROELECTRONICS TECHNOLOGY UNIFIED CONFERENCE, pp.1-2, 2019
3) 道関他、特許4317099号
4) A. Tanaka, et.al., “Self-powered Wireless Urinary Incontinence Sensor for Disposable Diapers,” IEEE SENSORS 2011 Conference, pp.1491-1494, 2011. IEEE SENSORS 2009
5) A. Tanaka, et.al., “Wireless Self-powered Plant Health-monitoring Sensor System,” IEEE SENSORS 2012 Conference, pp.311-314, 2012. IEEE SENSORS 2012

CLEAN-Boost®に関するお問い合わせは、下記にお願いいたします。

エイブリック株式会社 
https://hub.ablic.com/ja/inquiry-cb