意外なルーツを持つエイブリックの医療機器用IC、その確かな実績と今後の展望を探る

TechanaLye2019-5-9
株式会社テカナリエ

超音波診断装置

今回は、エイブリックの医療機器用ICを紹介する。エイブリックの医療機器用ICラインナップには、超音波送信パルサー超音波送信リニアアンプ高電圧アナログスイッチがあり、例えば、図1に示すような超音波診断装置の赤枠でかこまれたアナログフロントエンド部分などに使われている。具体的には、図2のように、超音波送信機能として、矩形波形を出力する中級機種向けの「超音波送信パルサー」と、任意波形を出力可能なハイエンド向け「超音波送信リニアアンプ」の2種類を用意。どちらもアンプ自身の歪みを可能な限り抑制するよう徹底した出力波形の位相合わせを行うことで、高品質な正負対称波形の出力を実現している。これに加え、5V単一電源のみで200Vの高電圧に対応可能な「高電圧アナログスイッチ」も用意。次世代に向けては400V対応品の開発も行っている。

図1 超音波診断装置(イメージ図)
図1 超音波診断装置(イメージ図)
図2 エイブリックの医療機器用IC
図2 エイブリックの医療機器用IC

こうした高度な医療品質を実現可能にする技術は、いつ、どこで培われたのだろうか。ご存じのようにエイブリックの前身は、エスアイアイ・セミコンダクタ株式会社だが、そのルーツとなる株式会社第二精工舎がCMOS ICの研究開発を開始したのは1968年。実に50年もの間、ICの開発を進めてきたことになる。そのエイブリックに2016年、医療機器用ICが加わった。実は、この製品は、40年超のCMOS IC開発の歴史を持つ日立製作所が2005年から手懸けてきたもので、日立の事業ポートフォリオ見直しに伴い事業移管が実現している。共に長い歴史を持つ両社の知見を合わせ持つ製品が、エイブリックの医療機器用ICなのだ。

この確かな技術力に裏付けられたエイブリックの医療機器用ICは、世界各地で使われている。図3は、これら製品の主要顧客とその割合を示したものである。欧米と日本の大手5社が全体のおよそ80%を占めている。冒頭で紹介したように、これらは中位から最上位までの超音波診断装置を開発するメーカーだ。このように市場からの高い評価を受けながらも、その先の新たな顧客を開拓するには、その他20%に名を連ねている中国などの顧客がこれらの製品をどう活用しようとしているのか、医療現場における超音波診断装置の使われ方がどう変わってきているのかを見ていく必要がある。

図3 エイブリックの医療機器用ICの主要顧客
図3 エイブリックの医療機器用ICの主要顧客

従来、超音波診断装置は、内科、産婦人科で、臓器の状態や子宮内での胎児の様子を確認するために使われてきたが、近年では整形外科でも、肩こりや肉離れなど、X線ではわからない筋肉の状態を把握するために使われ始めている。こうした中で、中国を中心に、図4のような、検査プローブのヘッド部分に診断装置のフロントエンド機能を埋め込み、データを無線通信でタブレット等に送信する、ポータブル型検査装置の開発、実用化が進んでいる。現在実用化されているものは画質を落としたものとなっているが、今後、高画質化が進み、かつ、プローブからのデータをメモリに保存し、その結果を医療機関に送る仕組みが整えば、いつでも、どこでも、誰でも検査可能な環境を提供することができるようになる。既に欧州などで、妊婦が検査キットを使って自分で腹部のデータを収集し、それを医療機関に送信することで、自宅にいながら定期健診を受けることができる体制もできつつあるという。

図4 ポータブル型超音波診断装置(イメージ図)
図4 ポータブル型超音波診断装置(イメージ図)

こうした医療機器のIoT化が進めば、医療の個別化と同時に、遠隔医療、災害時医療にも対応可能となる。医療費削減や健康寿命引き上げにも貢献するものとなるだろう。

次回は、少し視点を変えて、こうした5V電源で200Vの高電圧に対応するアナログスイッチと矩形波と任意波形の両方を出力可能な超音波送信ICの、医療分野以外への転用可能性について考えてみたい。

 

執筆:株式会社テカナリエ
“Technology” “analyze” “everything“を組み合わせた造語が会社名。年間300のエレクトロニクス製品分解、解析結果を基に、システム構造やトレンド解説、市場理解の推進を行っている。 

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